下野竜也指揮 NHK交響楽団 6⽉公演:祈りの音楽に涙する2日間

 2月公演に続いてパーヴォさんの代打で下野竜也さんが登場!ブルックナー交響曲第0番はメインとしてそのまま残し、前半にフィンジとブリテンを持ってくるという、下野さんらしさ全開のプログラム。それぞれの曲に流れる「祈り」の響きに涙する2日間でした。

(以下、下野さんが好きすぎるオタクの戯れ言ですのでご注意ください)

概要

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基本情報

曲目

 

www.nhkso.or.jp

 

 その他

 自分は大体開場時間ちょうどぐらいに到着して、ホールで音出しをしている様子を観察するのが好きなのですが、今回は西山兄弟(vc西山健一さん、cb西山健一さん)が合わせているところを目撃できて嬉しかったです。そして並ぶとあまり似ていないことが分かりました……(何の話ですか)。

 そして今回下野さんは正装スタイルで登場!格好良い!とてもテンションが上がりました!!

 

フィンジ/前奏曲 作品25~ブリテンシンフォニア・ダ・レクイエム

 今回、下野さんの意向で前半2曲は続けて演奏されました。ということで感想も2曲続けて。

 まず演奏されたのは、フィンジの前奏曲。フィンジは若くして父と3人の兄を、第1次世界大戦では作曲の師匠を亡くしています。そんな経験が影響しているのか、フィンジの作品は「祈り」の響きが色濃い気がします。

 今回の演奏は、意外とテンポ速めで、低音を中心にぐいぐいとドライブ感すら感じられるような仕上がりでした。ヘ短調の哀しく美しいメロディで進行しますが、最後はクレッシェンドのあと、ヘ長調の輝かしい和音で締めくくられます。N響の美しいだけでなく逞しさを感じる弦の響きに、悲しみにそっと寄り添うだけでなく、明るい場所へ、ぐっと腕を引かれるような、そんな気持ちになり思わず目から水が……。

 そしてアタッカで始まったブリテンシンフォニア・ダ・レクイエム。癒しの音楽から一転、久保さんによるティンパニの鋭い打音から、不穏なフレーズが始まります。ブリテンが始まるときの下野さんの気迫が凄まじく、鬼気迫るものがあり圧倒されました……。今回のプログラムの中でも特に下野さんの熱量を感じたこの曲。一音一音に魂を込めるような指揮と演奏でした。

 第1楽章〈涙の日〉は、すすり泣くようなフレーズが次第に盛り上がっては静かになり、を繰り返して、またティンパニの強打が入り、一楽章のクライマックスを迎えます。ぐっとテンポを落として演奏された、この強奏部分の迫力がとんでもなかったです……。芸劇いっぱいに鳴り響く恐ろしい怒りの音圧に痺れました。

 切れ目なく演奏される第2楽章〈怒りの日〉。各パートが短いフレーズを繰り返しながら走り抜けるようなこの楽章。フレーズのニュアンスに下野さんのこだわりが見える、とても立体的な音楽が印象的です。

 第3楽章〈永遠の安息を与えたまえ〉でニ短調からニ長調へ。穏やかなフルートの三重奏から始まります。首席の甲斐さんはじめ、N響フルートセクションの透明感のある音に癒されます。最後は低弦のピチカートにのって音楽が閉じられるのですが、なんだか、大変なことが多い世の中だけど、何とか歩いていこうじゃないか、というメッセージに感じられて、また目から水が出ました。

 痛切な響きのある短調から、希望の光が差し込むような長調へと展開する2曲を続けて聴いて、下野さんの想いがひしひしと伝わってきました。

 

ブルックナー交響曲 第0番 ニ短調

 『音楽の友』(音楽之友社)2021年6月号のインタビューで、下野さんはブルックナーの聴き方について以下のように語っています。

ヨーロッパの森の中をゆっくり歩いてくような音楽と思うのはいかがでしょう、とアドヴァイスしています。森の木々はそんなに変化しません。(中略)でもどの瞬間も美しい。たとえばマーラー交響曲のように、いつも事件が起こっている音楽ではないのです。喧噪にまみれた現代社会に生きている私たちに、ブルックナーの音楽は心の平安を教えてくれるのではないかと思います。

 ブルックナーの0番は、くるくると表情を変えて、いきなりffからppになったりするこの曲。なんだか忙しないなくてよく分からんなあ、と思っていたのですが、今回の演奏を聴いて、本当にどの瞬間も美しく、魅力的な交響曲なのだな、と認識を改めました。

 

 第1楽章。一音目からワクワクするような充実した響き。あ~下野さんだなあ、と改めて思いました。この曲では、どの楽器も喜びが溢れるような響きで、前半プログラムでの祈りに満ちた響きとの違いが面白かったです。特に金管の輝かしく荘厳な音は爽快でした!
あと、この曲では全般をとおして(1楽章だけでなく)、総奏でバーンと鳴らした直後にpで弦がささやく、という場面が多々現れますが、このときに金管をきもち長めに鳴らして、その残響が消えるか消えないか、というタイミングで弦が入ってくる、というのが見事だなあと。こういう微妙な響きのニュアンスを感じられるのはホールで聴く醍醐味ですね。

 第2楽章はひたすら優しく美しい弦と木管。やっぱりN響木管は良いですね。この曲の木管メンバーは下記のとおり。

 Fl.甲斐、梶川
 Ob.青山、池田
 Cl.伊藤、山根
 Fg.宇賀神、菅原

 そして音楽とは関係ないですが、この日コンマスの隣は郷古廉さん。初めて生で拝見したのですが、めちゃくちゃイケメンですね!この第2楽章で、ふっと微笑んで弾いていらっしゃったお姿が印象的です。

 第3楽章は一転、勢いのあるスケルツォ。歯切れの良い演奏が心地よいです。拙者、下野さんのスケルツォだいすき侍。楽しそうに振る下野さんが可愛らしいです。前半プログラムの鬼気迫る表情も格好良いですが、にこにこ笑顔の下野さんも捨てがたいですよね(?)。

 第4楽章。第2主題(で合ってるかしら)で、1回目のヴァイオリンは風が吹き抜けるように爽やかにさりげなく、2回目のチェロの豊かに歌い上げるところが印象的でした。N響のチェロセクション、良いですよね(この日の首席は辻本さん)。

 

 いやあ、本当に見事なブルックナー0番でした!舞台袖で「いい曲でしょ!」と仰った下野さんのブルックナー愛が炸裂した素晴らしい演奏。とても幸せな時間でした。

 

 2日目のカーテンコールでは、舞台上でスコアを掲げ、スコアに向かって拍手していました。こういう姿勢が演奏に顕れている気がして、とてもすきなのです。

 

  演奏後はすぐに指揮台から降りて、コンマスに促されてもめったに応じない下野さんですが、2日目は一瞬だけ指揮台に上がられました(上の動画ご参照ください)。本当に謙虚なお方ですよね……。あれだけの演奏を指揮したのだから、もっと前に出て!拍手をさせて!とも思うのですが、そこが下野さんらしくて好ましいです。

 

 以上、下野さんが好きすぎるオタクのまとまりのない戯れ言でした。今月はあと1回下野さんチャンスがあるのでとても楽しみです!

https://www.tmso.or.jp/j/concert/detail/detail.php?id=3474